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女子高生と事件

紬「あれ」
//SEガチャガチャ(鍵がかかっている)
紬「なーんだ、留守か。まだ宿題終わってないし、図書館でも行くかあ」

//図書館
紬「涼しいー!」
紬「よし、宿題宿題と――」
??「キャーッ!!」
紬「悲鳴!?」
//SE走る音
//通路に本が散乱している
//男が倒れている
//SEざわざわ
紬「ちょっといいですか。どいてください」
まず肩を叩いて意識確認をする。
紬「すみません。大丈夫ですか? 聞こえますか?」
返事はない。
立ちくらみや眩暈の場合は三十秒程で意識が戻る。腕時計を確認する。三十秒。反応はない。
脈、呼吸、共に無し。
紬「そこの人、119番通報をお願いします」
女性「あ、はい!」
男性「孝明!? おい、孝明!!」
紬「入って来ないで! 現場を荒らさないで!」
紬「心肺停止状態です。救急隊員を呼んでいるところです」
男性「うそだろ……」
紬「何か手掛かりになるものは……ん?」
紬「人差し指から出血……? 本を取ろうとした時にかけた指かな」
宗教のコーナーだった。反対側は歴史のコーナーで、そちら側の本の落下が多かったのは、倒れた時に男性がぶつかったためだろう。落ちている本の中で宗教の本を探す。
紬「見つけた」
横の二冊も共に落ちたのであろう、宗教の本は三冊だけ落ちていた。
スマートフォンを取り出し、一度離れて現場の写真を撮った。それからポケットからハンカチを取り出し、一冊ずつ、元の位置を忘れないようにしながら本を持ち上げた。
紬「あった」
血の付着した本を見つけた。本の上部から針が飛び出している。この針に指を突き刺し、倒れてしまったのだろう。
//救急隊員がやってくる
//男性と友人を連れて立ち去る
紬「聖書か……」
//SE本を捲る音
紬「先生帰ってるかな……」
//SEスマホのコール音
先生『俺だ』
紬「先生、図書館で心肺停止の人が出ました」
先生『ほう』
紬「男性の指には血がついていて、同じように血が付着し、針が入っている本がありました。他に何か確認すべきものはありますか?」
先生『それは何の本だ?』
紬「聖書です」
先生『聖書か……被害者の様子は?』
紬「目を見開いて倒れていました。意識、脈、呼吸確認しましたが、心肺停止状態でした。救急隊員によって既に運ばれています」
先生『紬、その針には触っていないだろうな?』
紬「はい。ハンカチで本だけ触っています」
先生『針には絶対に触るな。それは毒だ』
紬「えっ、毒?」
//SE悲鳴と立ち去る足音
先生『目を見開いていたのだろう。瞳孔も広がっていなかったか? 神経作用系の毒だ。触れば君も同じ道を辿るぞ』
先生『あとは警察に任せて帰って来い』
紬「うん、わかった……」
電話を切って、次に110番通報をした。
警察はすぐやってきた。状況説明をする。知り合いの探偵に聞いて、針に毒が塗られている可能性があることを告げた。メールアドレスを聞いて、最初に撮った写真を送った。
警官A「君は警察学校の志望か何かかい?」
紬「え? いえ、ただの高校生です」
警官A「ただの高校生でここまでやれるんだったら、警察でもやっていけると思うよ。将来どう?」
警官B「こら! 無駄話をするな!」

連絡先だけ置いて、事務所に戻ることにした。

 

図書館から事務所まで二駅。電車の中で、自分が今まで見た死体を思い出した。
最初に見た死体があまりにも惨かった。自分の両親だ。そして次の死体は、その犯人。頭が吹っ飛んだ。
今日の心肺停止状態の人物は、大きな傷は一つも無かった。指先にひとつ。それだけで死んだ。
駅で電車を降り、まっすぐに事務所に向かう。

 

//SEドアを開ける音
先生「やあ、紡。災難だったな」
紬「……」
//SEドスン腰が抜ける
斎藤「紬ちゃん!? どうしたの!?」
紬「なんか……急に、怖くなった……」
紬「あんな……指先ひとつの傷で、人って、死ぬんだ」
先生「ああ。人はそのままの姿を保ったまま死ぬこともある」
先生「ところで、君が見つけた聖書だがな。そこにどんな事が書いていたか思い出せるか?」
紬「え? えーと……」
紬「『口を守る者は、その命を守る、唇を大きく開く者には滅びが来る』だったかな……」
先生「箴言第十三章三節だな」
//SEページをめくる音
紬「しんげんってなに?」
先生「教訓の意をもつ短い句。戒めとなる言葉」
斎藤「無差別殺人でしょうか」
先生「聖書なんて図書館で読む奴がどれだけいると思う」
紬「じゃあ、あの人を狙った殺人ってこと?」
先生「その可能性が高いだろう」
紬「被害者の友達はいた。名前はわかんないけど、『孝明』って名前呼んで駆け込んで来たの」
斎藤「聖書に針を仕込んでおいて、友人にその本を取りに行かせて殺害……?」
先生「その場にいた人間だけで事件を完結させようとするのは初歩的な判断だがな」
紬「先生は違うって思ってるってこと?」
先生「そんなもの、当日の監視カメラを見るだけで事が済むだろう。まあ、図書館の監視カメラなんて、すべてを隈なく映しているとは思えんが」
紬「監視カメラの陰をついて針を仕込んだ。誰かがその人に殺意を持って行った……」
//SEスマホのコール音
紬「はい、榊下です」
山崎『先程はどうも。担当警部の山崎です』
紬「あ、はい、こちらこそどうも」
山崎『被害者は死亡しました。榊下さんが仰ったように針による毒殺でしたね』
紬「やっぱりそうですか」
山崎『該当の本、聖書ですけどね、あの本が触られたのがいつなのか監視カメラを遡ったんですが、一か月前まで遡ってしまいましてね』
紬「一か月前!?」
山崎『はい。顔は隠していて見えなかったんですが、不審な男がね、該当の本の付近で何やらやってまして。こりゃあ、無差別殺人だったのではないかというのがこちらの見解ですわ。まあ犯人は捜しますけどね』
紬「でも、聖書に触れる人なんて滅多にいないと思います。無差別殺人をするなら、もっと手に取りやすい本を選ぶんじゃないでしょうか」
山崎『とは言ってもねえ、こっちではその方向で捜査始めてしまいましたんで。えーと、お知り合いの探偵の先生? が捜査に協力してくれるなら話は別なんですけど』
紬「……そうですか、わかりました。何かありましたら、またご連絡させていただきます」
//SEピッ
先生「一応聞いてやろう。何と言っていた?」
紬「ええと――」
先生「まあ、そうなるだろうな」
斎藤「迷宮入りでしょうか……」
先生「まあ、犯人の目途はついている」
紬&斎藤「えっ!?」
先生「と言っても、針を仕込んだ犯人じゃあない。その更に裏にいる犯人だ」
紬「……殺人教唆?」
先生「そうだ。よく勉強しているじゃないか」
先生「聖書の引用など、あいつの好きそうなものだ」
紬「誰なの?」
先生「さて、謎解きは終わりだ。紬、今日の宿題は終わったのか?」
紬「え、終わってないけど……」
先生「君はよくやった。それだけは誇って良い」

 

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